ハラスメント規制法とは、ハラスメント対策を企業に義務付けるものとして2020年6月より一部企業(大企業)に適用・施行されました。職場におけるセクハラやパワハラなどを根絶、対策を目的として作られたものです。そして、今春2022年4月1日から、これまで努力義務だった中小企業に対しても義務化されました。この記事では、このハラスメント規制法に関して詳しく解説します。
ハラスメント規制法とは
2019年5月に可決された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」。これは、職場におけるハラスメントを防止・根絶することを目的とし、企業に対しハラスメントへの対策などを義務付けるよう法律を改正しようというものです。
この改正案には、女性活躍推進法や男女雇用機会均等法、育児介護休業法などさまざまな法律が関係しています。これらの内容をまとめて「ハラスメント規制法」と呼んでいます。
参考URL:改正女性活躍推進法で何が変わった?だれもがキャリアを築ける時代へ
ハラスメント規制法ができた背景
近年、女性をはじめとしてが多様な人材が社会で活躍しています。そんななか、職場でのパワハラやセクハラ、マタハラなどが増加傾向にあり現場におけるハラスメントへの対応が急務となっています。実際に、労使トラブルのなかでもハラスメントによるものが大きな割合を占めているのです。
そこで、職場におけるハラスメントを根絶することを目的として成立・施行されました。これまでは、「一般的な社会ルール」として認識されてきたハラスメントが、このハラスメント規制法によって明確に規制され義務化されるようになったのです。
そもそも「ハラスメント行為」とは?
厚生労働省は、以下のような行為を「ハラスメント」と規定し公表しています。(参考:厚生労働省「ハラスメントの類型と種類」)また、職場におけるハラスメント行為は、以下の3つすべてにあてはまる場合に「ハラスメント」と認定されます。(参照:厚生労働省「パワーハラスメントの定義」)
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
ハラスメントはさまざまな場面で起こりうる
相手に暴力をふるう、ものを投げつける、蹴るなどは、被害者または第三者も認識しやすいハラスメント行為です。しかし、身体的な攻撃だけがハラスメントではありません。厳しい叱責、陰口、無視、特定の業務だけに従事させるなどハラスメントにはさまざまなものがあります。
また、セクハラ、マタハラも同様です。セクハラやマタハラというと主な被害者は女性だと思いがちですが、男性にも起こりえます。妻の妊娠・出産や育児に関して、制度を利用させないなどの嫌がらせなどもハラスメント行為のひとつです。
職場におけるハラスメントの現状
ちなみに、厚生労働省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことはがあると回答した人は31.4%。その他、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は2020年度には約8万件であるなど、職場におけるハラスメントが大きな社会問題になっているのが現状です。
職場におけるハラスメントには、その問題の大小を問わず被害者を傷つけてしまう行為です。ハラスメントによって退職に追い込まれたりうつ病など精神的な問題を抱えたりすることも多く、長年にわたり被害者を苦しめてしまいます。そのため、ハラスメント行為があった場合、企業や事業者が安易な判断で対応してはいけません。個別の事情を鑑み、丁寧に調査し迅速・適切に対応することが求められます。
ハラスメント規制法の内容
ハラスメント規制法では、女性をはじめとして社会を担う多様な人々がさまざまな場面で活躍できるよう、職場環境相談窓口の整備・設置等を義務づけています。
就業規則等の見直し
ハラスメント規制法に即し、就業規則等を見直しすることが義務付けられています。職場におけるハラスメント行為に関する内容(ハラスメントに該当する行為や対処方法等)を明確に定める必要があります。
ハラスメントに対する周知、研修の実施
また、企業・事業者はハラスメントに対して明確に定めた就業規則等を従業員へ周知することが義務付けられています。さらに、ハラスメント研修をおこなうなど、ハラスメントに対して正しく理解し適切な措置を講じることができるよう態勢を整えなければなりません。研修は、全従業員向け・管理職向け・ハラスメント行為者・ハラスメント相談窓口担当者向けなど、領域や役職に分けて実施するとより効果的です。
相談窓口の設置
ハラスメントに対し、適切に対応できる相談窓口を設置します。単に相談窓口を設置するだけではなく、相談者が安心して利用できるよう適切な対応ができる人材を配置することも重要です。外部の専門機関などを活用するのもひとつです。
適切な対応
ハラスメントの防止は大切なことですが、ハラスメントが起こってしまったときに適切に対処できるかどうかも非常に重要です。ハラスメントが起きたとき、事実関係や経緯の調査、また再発防止の対応などを適切におこなうことが求められます。もちろん、関係者の個人情報等プライバシーを保護することも忘れてはいけません。
ハラスメント対策の徹底は企業にとってメリットも
職場におけるハラスメントへの対策を講じることは、企業にとってもメリットがあります。
もし、パワハラが起こった場合、被害者への影響はもちろんのことさまざまな問題が生じます。業務にも支障が出ることでしょう。結果、貴重な人材、優秀な人材を失ってしまうことにもつながります。場合によっては、企業が社会的に信用を失ってしまうことにもなりかねません。
このような影響を避けるためにも、これを機に丁寧な環境整備と周知をおこなっていきましょう。
いきいきと働くことができる環境は企業を成長させる!
現時点では、対策を怠った企業への罰則等はありません。しかし、対策を怠った企業に対し労働局が「是正勧告」ができるようになっています。また、ハラスメント対策において改善が見られない場合には企業名を公表できるようになっています。
そのため、ハラスメント対策を怠ってしまうことは企業にとっては社会的な信用を大きく失うことになるでしょう。自社の従業員を守り、企業の信用も守るためにも、職場環境の整備や制度の見直し等を徹底しておきましょう。
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