2022年7月8日、女性活躍推進法の省令改正・施行にともない従業員が301人以上の企業に「男女の賃金格差(賃金差異)」の開示が義務化されました。日本において男女の賃金格差は縮小傾向にありますが、依然として世界の先進国と比べるとその差が大きい状況に変わりありません。この男女の賃金格差を少しでも縮小しようと企業に対し賃金差異の公表を義務付けたわけですが、なぜ未だ日本ではこれほど男女の賃金格差が生まれてしまうのでしょうか。
日本における男女の賃金格差の現状
下記は厚生労働省が発表している「性、年齢階級別賃金」です。全体的に女性のカーブは緩やかであり、男性とは異なっているのがよくわかります。女性の賃金のピークは50~54歳、男性の賃金のピークは55~59歳とほぼ同じころですが、賃金差は1.5倍近くあります。ピークを超えたあとも、男性の賃金は女性に比べて下降が急カーブになっているものの女性よりも高い水準であることがわかります。
日本の男女の賃金格差は長期的に見れば少しずつ縮まってきているものの女性は男性の賃金の約75%程度にとどまっており、男女の賃金格差がなかなか埋まらないことが問題視されています。
参考:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
男女の賃金格差が生まれる原因
では、なぜ日本の男女の賃金格差は埋まらないのでしょうか。学歴も入社時の賃金も同じであっても年齢の上昇にともない賃金差も拡大していく……そこにはどんな問題が隠れているのでしょうか。
原因1.根強い“性別役割意識”
日本には、まだまだ性別役割意識が根強く残っています。性別役割意識とは、「男性は仕事」「女性は家庭」というように性別によって役割を分担する考え方のことです。性別によって仕事や役割を固定化される考え方は個人の能力や意思を反映しないもので、現在のジェンダー実現とは程遠いものです。
「古い考え方」そう感じる人も、身近な職場環境で考えてみるとよく分かります。「力仕事は男性に」「事務作業は女性に」無意識にこう考えてしまう方もいるかもしれません。この性別役割意識は長く日本に根付いてきたものです。この考え方はこれから述べるほかの原因にも影響しています。
原因2.日本型雇用システム
日本は高度経済成長期のころから、終身雇用という日本独自の雇用システムが採用されてきました。優秀な人材を囲い込める企業、長く働けば給与は上がるという安心感を得られる労働者。年齢によって給与も地位も上がり、無理に転職しなくてもよい暮らしをすることができる年功序列という仕組み。企業と労働者が互いに恩恵を受け、この雇用システムによって日本はこれまで発展してきたのかもしれません。
しかし、女性が家事を全て担うことや寿退社が当たり前だった時代では、女性が同じ企業で長く働き続けることはできず、男女の賃金格差を助長する一因にもなっています。コロナウイルスの感染拡大を機に、終身雇用や年功序列制度は問題提起されることも多くなりましたが、まだまだこのシステムを維持している企業も少なくありません。
原因3.管理職の割合
2016年から女性活躍推進法がスタートし、これまで「女性の活躍」「女性の管理職登用」が進められてきました。しかし、女性にとっては、実感として感じることはそれほど多くはないかもしれません。
日本における女性管理職(課長相当職以上)の割合は平均8.9%と依然低い水準です。過去最高の数値ではあるものの、企業規模や業界によって女性の管理職登用が思うように進んでいないということも多いようです。女性が働くために企業の制度が充実し行政によって環境が整ってきたことで共働き世帯も増えてきましたが、女性が望んでいるキャリアステップを歩むことはまだまだ難しいのが現状です。
参考:帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2021 年)」
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原因4.男性の無償労働時間の短さ
無償労働とは、家事や育児などのこと。とくに、近年日本では「男性の育休取得率の低さ」が課題と言われています。2020年では、女性の育休取得率が81.6%に対し男性は12.7%と非常に低い状況です。また、2週間未満の育休取得は約50%と育休期間が短い点も課題です。「女性が長く働ける環境をつくる」「女性が育児と両立できる制度をつくる」「女性活躍を推進する」ためには、男性が積極的に育休を取得できたり残業を減らしたりするなど、男性の働きやすさや労働の負担軽減を実現してくことも大切です。
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男女の賃金格差解消には「多様化への意識改革」が必要
原因を見るとおり、これまで長きにわたって“習慣化”や“固定化”していることも多く短期的に解決することは難しいでしょう。今回の女性活躍推進法改正にともなう賃金差異の開示だけでは、すぐに格差が埋まっていくともいえません。しかし、他の先進国は少しずつでも明らかにその格差を解消しつつあり、日本も必ず実現しなくてはなりません。
そのためには、企業も個人も「多様化への意識改革」が必要です。働き方、人材、キャリアに対して多様性を受け入れ、従来の日本型の雇用システムや賃金構造、キャリアステップを見直していかなくてはなりません。“同一労働同一賃金”を原則とし、性別や年齢で年収や地位が決まるのではなく、ひとりひとりの能力が最大限に活かされることが大切です。
企業が男女の賃金差異を公表することが全ての解決の糸口ではないですが、職場における男女の格差を解消していくひとつの策として今後どのように活かされていくのかを注目し、中長期的な目線で議論をしていく必要があるのではないでしょうか。
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